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カラダの使い方の調律師

プロフィール

廣田 侑耶(ヒロタ ユウヤ)

ココチラボ代表、コブトレトレーナー。

高校卒業後、単身カナダへ。 International College of Traditional Chinese Medicine of Vancouver へ入学。

校内併設のクリニックで臨床経験を積み、ブリティッシュコロンビア州認定鍼灸師免許、当時DTCMを取得。

富山県国際伝統医学研究所で医学博士上馬場和夫先生の下で流動研究員として勤務。

その後、健康の基本である体のバランスを整える手技を学び開業。臨床経験併せて20年。本当に充実した人生を送っていただくために、カラダ作りの大切さを知ってもらいたいとトータルボディコンディショニングスタジオ「ココチラボ 」を設立。現在、古武術肥前春日流春日会所属。


生徒さんの気づきを大切にする

体が悪いご家族の体を少しでも良くしたいという思いがきっかけで、医療の世界に入った廣田さん。整体師として、何人もの患者さんと向き合ってきた中で、何度施術しても患者さんがまた同じ治療をしに来ることに違和感を覚える時期が訪れる。

 

その時に廣田さんが気づいたことは、「いくらその場だけ治療をしても、その人の生活のなかで姿勢を変えてみるなどの工夫や変化が生まれない」と言う点…結局、何度も同じ治療を繰り返してしまうということだった。

その後、同じ治療を繰り返すことなく自らイキイキした生活を送ってもらうために、整体師からトレーナーへ転身し、姿勢の悪い体をただ治すのではなく、カラダづくりのお手伝いをするようになった。

また、自分自身の運動不足を解消するために出会った古武術で、体の使い方の大切さを実感していた廣田さん。

古武術のエッセンスを取り入れたトレーニングをやっているところは、ほとんどなかった。

古武術は、からだづくりとの相性がとてもよく、これこそ廣田さんが考えるトレーニングに必要不可欠な要素だと確信していた。

今では、廣田さんのレッスンの軸となるほど大切なエッセンスだ。


「レッスンの場はあくまで体の使い方を調整する場」と唱える廣田さん。

トレーニングの成果は、日常生活で生徒さんがどれだけレッスンで教わった要素を取り入れて工夫していただけるかで変わってくる。

 

その大切さを廣田さんは「教える」のではなく、トレーニングによって生徒さんたちが自ら「気づいていく」のを待ち続ける。

それに気づいた生徒さんたちは、以前よりもずっと暮らしを楽しめるようになる。

暮らしの中で喜びが生まれるトレーニング

今回の取材では、個人レッスンとグループレッスンの様子を見学させていただいた。

 

個人レッスンに2年ほど通っている女性は、百貨店に長年勤めており、立ち仕事が多く体への負担が大きかった。

ヨガや整体マッサージなどいくつか通ってみたが、自分に合うものがなく悩んでいた時に、廣田さんに出会った。

その後、廣田さんのトレーニングによって体の使い方の大切さを実感し、仕事中にも立ち方や姿勢を調整するなど、日常生活でも工夫をするようになった。

 

今では、肩の位置の微妙なズレも感覚で分かるようになってきており、体も疲れにくくラクになったそうだ。

また、趣味でしの笛や太鼓を習っているが、演奏も格段に上達したとのこと。

整体トレーニングと楽器演奏は一見関係がなさそうだが、実は肩甲骨の使い方によって肺の使い方が変わり、しの笛を吹く時の音の伸びに変化が出る。

太鼓の打ち方も、体の使い方によって変わってくるので、実際にレッスンにバチを持ってきて練習もしている。


普段の立ち方や座り方だけではなく、趣味の音楽やスポーツに活かしたいと思っている生徒さんはたくさんいらっしゃるとのこと。

プロのスポーツ選手や舞台俳優・アーティストも顧客にもつ廣田さんにとって、専門ではない分野だったとしても、正しい骨の使い方・体の動かし方をしているかどうかは見分けることができる。

体幹を鍛えることで怪我をしにくくなり、生徒さんのパフォーマンス向上にもつながっている。

一方、グループレッスンでは、生徒さん同士でもトレーニングの成果を高め合っている。

研究熱心な人や自分のやり方から抜け出せない人などいろいろな人がいるが、毎週会っていると、始めた時との違いにお互いに気づくようになり、どんどんトレーニングが楽しくなってくるとのこと。

体のバランスが悪く、しばらく乗れなかった自転車に乗れるようになったり、電車でも椅子に背中をつけずに座ることを楽しむようになったりなど、暮らしのいろんな場面で喜んでいる方がたくさんいた。


大人数での取り組みは、人の姿勢を見て自分のできていないところに気づいたり、大切な家族にアドバイスができるようになったり、利点がたくさんある。

僕も参加してみたが全く体が言うことを聞かず、年齢や力の強さは体の使い方に関係がないことを痛感した。

 

レッスンだけで完結せず、そこで得たエッセンスを暮らしに取り入れることが大切だと気付き、喜ぶ生徒さんたち。

廣田さんは、生徒さんが日々の生活で工夫したくなる空気を作っている様子が伺えた。

自身の成長のために工夫をし続ける

グループレッスンにおいては、生徒さんたちの立ち位置にも気をつけている。

生徒さん同士がコミュニケーションを取りやすく、トレーニングをしやすい環境を作るために、その都度ポジションを変えている。

また、グループレッスンを始めた当初は、ホワイトボードを使って古武術を取り入れたトレーニングのエッセンスを理論立てて説明していた時間もあったそうだ。

しかし、教え込むやり方よりも、実際に体を動かして自ら気づいてもらう方が大切だと思うようになり、開業当初より改善を心がけている。


そのほかにも、廣田さんが生徒さんたちのトレーニングの成果を実感してもらうために工夫しているところがある。

例えば、グループレッスンでは全員が足袋を履いている。

その理由は、力の入れ方が足袋のスレ方で分かり、体の使い方を調整する目安にできるからだ。

また、廣田さんのスタジオでは、フローリングにこだわっており、あえて力の入りにくい床にしている。

力を入れれば入れるほど滑りやすくなり、体や骨の使い方が大切だということを実感してほしいと思っているからだ。

トレーニングによって気付きが生まれる環境づくりへの細かいこだわりも、廣田さんから感じられた。

廣田さん自身も環境づくりへの工夫や努力を怠ることはない。

元気な体から暮らしを築く

自分の体は一番身近にあるものなのに、すぐ猫背にしたり変に体重をかけたりするなど、お粗末に扱ってしまうことが多いかもしれない。

廣田さんとお話ししていると、全て見透かされた感じがして、その場だけでも背筋を正したくなる。

生徒さんたちが実感しているように、体が悪くなってから治療するのではなく、悪くならないように日常生活で正しい体の使い方を工夫する取り組みが大切だと気づかされた。


「必ずあなたの中に眠っている宝物。それぞれが持っているポテンシャルを見つけ気付かせてあげるのがココチラボの役目。」と廣田さんはWebサイトでも語っている。

 

「正しい骨の使い方」とはどういうことなのか、僕もここに通って体感してみたくなった。

生徒さんたちの暮らしが楽しくなるのは間違い無いだろう。

なぜなら、廣田さんが実践しているのは、以前よりも体の状態が良くなる価値づくりなのだから…。

 


ライタープロフィール

佐比内優太(さひないゆうた)

 

神戸大学工学部4年生。

社会人になって働く前に、「価値づくり」とはどういうことなのか、自分はどういう生き方をしたいのかを追究したいと思い取材執筆。

バーテンダー、カメラマン、メディア、ライター、e-Sports、教育など、自分の興味・関心があることに、幅広く取り組んでいる。

2019年1月から12月までBusinessCafe関西インターン生。