プロフィール
市川裕道(いちかわ・やすのり)
コーヒースタンド「Refill リフィル」店主
30年以上に及ぶ気分転換の手段であった飲み歩きにより出会った一杯の体験により、2013年に店をオープン。以来、ご要望があれば「コーヒーを点てる(淹れる)体験」をお伝えしながら、お客様とのコミュニケーションを楽しんでいる。「ホッとしながら、いいひらめきを」そんな一杯がお渡し出来るよう日々進化中。
お昼を過ぎると、周辺オフィスで働くたくさんの人たちが、あたりまえの習慣のように飲みたいコーヒーを買いに来るお店が、大阪の本町にある「refill」さん
このお店…路面店用のテナントスペースというより、ビルのエントランス通路の余剰スペースに設けられているところに少し驚くが、その佇まいには落ち着きを感じるものがあった
オーナーである市川さんは、6年前にここでお店を開き、一人でお店を営んでいる
もともとコーヒーが大好きで、サラリーマン時代にも休日は頻繁に喫茶店に行き、コーヒーを飲み歩き、いつか自分のお店を持ちたいという夢があった
そして、娘さんが社会人になったのを機に30年勤めていた会社を辞め、独立してこの場所で開業
元々は駐車場として利用されていたスペースを改装してお店を構えた
近くに靱公園があるので家族連れの方も多く、一人でお店を営んでいく上で、お客様との距離も近いお店にしたいという思いがあったからだ
初めは大家さんに断られていたが、自分が出したいお店のイメージにぴったりだったので、絶対にそこでお店を構えたいと思い、半年かけて説得した粘り腰には恐れ入る
店頭にはイメージキャラクターのキリンの模型
カウンター前の顧客スペースは二人までしか入れない
「refill」さんへは、取材以前にも、何度かお伺いしたことがあり、ここで飲めるコーヒーは、格別に美味しい
「焙煎は化学…その焙煎で、味の8割が決まる」とおっしゃる市川さんが作るコーヒーには、雑味が全く無く、しっかりした味わい
味の違いは豆に含まれている成分の違いで、焙煎による化学反応でどのようにコントロールするか、市川さんは日々研究されている
そのためだろうか…普段はブラックを一切飲まない僕でもブラックで飲める
そんな美味しいコーヒーを作られている市川さんの思いを、紐解いてみた
変わらない味への心配り
市川さんは新しい豆を仕入れた際」、1週間毎日飲んで味を試している
毎日でも飲みたいと自分が思える程美味しいコーヒーでないと、お客様には絶対に満足してもらうことはできないと考えているので、当然のことだと語る
新しく仕入れたコーヒーの味の確認だけでなく、飲み始めの最初から飲み終える最後まで味が変わらず、お客様に美味しくコーヒーを飲んでいただけるように、様々な工夫もされている
普段お店でカップのコーヒーを出された時、飲もうとしてもあまりに熱すぎて飲めず、しばらく冷ましてから飲まないといけないことが多い
しかし、市川さんが作るホットコーヒーは、確かに熱いのだが、冷ますことなく、すっと飲むことができるのだ
実は、ドリップの仕方を工夫しており、そこで細かな温度の調整している
そうすることで、一般のお店で出されるコーヒーよりもほんの数度だけ温度を下げることができ、熱いままでも飲めるようになるそうだ
更に、お持ち帰りされる方への渡し方にも、工夫をしている
袋に入れてお持ち帰りするのだが、その袋を必ず二重にして、冷めにくいようにしている
こうした計らいは、できるだけ飲みやすい状態で、温かいコーヒーを飲んでもらいたいという、お客様に対する市川さんの思いの表れを感じる
一つ一つ丁寧に袋の準備をされる市川さん
店内にも美味しくコーヒーを淹れる方法が書いてある
また、アイスコーヒーを提供する際にも、一工夫されている
アイスコーヒーを飲む時、最後の方は氷が溶けて水っぽくなってしまい、飲まないことが多い
お店で飲む時はそれが普通だし、いつの間にか、それが当たり前かのように受け入れていたのかもしれない
しかし、市川さんが作るアイスコーヒーは、そうならない
使用する氷は、溶けにくい氷を作ることができる製氷機を選んで、使っている
そして、カップに入れる時も、最低限の3個までしか氷を入れない
ドリップをした後に、温度調整もしてから氷を入れるので、たった3個でも、しっかりと冷たいコーヒーに仕上がるようにしている
だから、氷が溶けても水っぽくなることはなく、美味しいまま飲むことができる…最後まで、変わらない味で飲んでいただけるように考えた、市川さんの工夫と心意気を感じる
お店では、実際にお店で使っているコーヒー豆や器具なども販売しているが、買われる方には、市川さんが美味しい入れ方を丁寧に説明されている
さらに、器具に合わせて入れ方も異なるので、それぞれに合ったコーヒーの入れ方が書いてある、市川さんが独自に作った説明書も用意されている
そこには、ただコーヒーを作る手順を書いてあるのではなく、一人一人のお客様が自宅でも同じ味わいで飲んでもらえるように、惜しげも無く市川さんの技術が、丁寧に説明されている
お店の姿はオーナーの心意気
取り扱う品々にもこだわりを感じる部分があった
市川さんがコーヒーを作られるスペースは、台がピカピカに磨かれていて、とても綺麗だ
その理由をお聞きしたところ、サラリーマン時代のお話をしてくださった
梅田の高架下の食堂街にあるお店で、食事をしていた時のこと
たくさんのお店が並ぶ中、そこのお店だけ他のお店とは違っていた
厨房の壁が、綺麗に磨かれた鏡がとても印象的だったとのこと
市川さんはそのピカピカの鏡を見て、そんなところまで綺麗に磨き上げているなんて…きっとこの人が作っている料理は、美味しいに違いないと思ったそうだ
だから、自分がお店を出すときは、もちろん美味しいコーヒーを出せるように努力するが、きっとこの人の作るコーヒーは美味しいのだろうな、とお店に来ていただいたお客様に思ってもらえるように、身の回りの環境はいつも綺麗にしている
そうしたことを実践されていく市川さんの感性がとても素敵に思えた
必要最小限の物しか置かない作業スペース
お客様のことをイメージしながら豆を仕入れる
お客様との信頼関係
取材中に訪れていたお客様の大半は、毎日足繁く利用される方々だった
「refill」に来られるお客様にはいろんな方がいる中で、周辺のオフィス街で働く方が、ホッと一息つきに来られることも多い
そして、常連さんの多くは、市川さんはお客様と会話をしながら、コーヒーの味の濃さなども決めている
その日のお客様の体調や気分に合わせて、「今日はこの味がちょうど良いのではないか」と感じてコーヒーを作り、休みの時間に来てくださるお客様に、少しでもリラックスしてもらえるように、工夫をしている
そうして一人一人に合ったコーヒーを作られている中、どうしてもタイミングによっては行列ができてしまう時もある
しかし、そうした状況でも、市川さんは全く慌てない
コーヒーを作る際、一杯当たりにかかる時間は数分かかるのだが、もし急いで作ってしまうと、それだけ味が落ちてしまうことになる
それではお客様に美味しいコーヒーを提供することができなくなってしまうので、自分のコーヒーを作るスタイル変えずに、一杯ずつの味を大切にしていると優しい笑顔で返してくれた
このことは、市川さんが公言しているわけでないのに、市川さんの心意気は、大半のお客様に理解されているということを、取材中にコーヒーを買いに来ていた方々からしっかりと感じ取れた
お客様の気分に合わせて様々な味わいが用意されている
お客様が飲みたいコーヒーの味になっているかを確忍
「refill」にある価値をしっかり理解しているお客様に支えられていることに、大きな驚きとカッコよさを感じた
しかし、冷静に考えれば、それこそが「refill」の価値なので、多くのお客様が足繁く通っているという仮説が立つ…
実際、もし列ができていても時間を全く気にせずに並び、急いでいる時はまた日を改めて来るようにしていると常連のお客様は語る
そして、順番を待っている際に、お客様同士で繋がりができることもあり、それも楽しみの一つであるそうだ
そんな市川さんのことを、人としても尊敬しているとお客様がおっしゃっていたのが、僕にはとても印象的だった
毎日数分だけの接点なのに、一人一人のお客様と市川さんが、こんなにも信頼した関係を築いていることに、素敵だと感じた
市川さんが作るからこそ飲みたい
市川さんが作るコーヒーは、雑味が出ないように、美味しいところだけを贅沢に使っている
取材中、雑味が出ない部分と出る部分の飲み比べをさせて頂く貴重な体験も…その味の違いは歴然であり、同じ豆で作ったコーヒーなのに、こんなにも味が違うのかと驚いた
その美味しい部分だけを使ったコーヒーを作るのも、もちろん最高の状態のコーヒーをお客様に飲んでもらいたいと思っているからだ
市川さんご自身が、元々はコーヒーが大好きで、お客様として30年間いろんな喫茶店に通い詰め、自助努力での学びも経て、徐々に目利きができるようになった
そして、自分がお客様だったらこんなコーヒーが飲みたいなと考える中で、一人一人のお客様のことを想ってコーヒーを作り、最後まで美味しく飲むことができるコーヒーを提供している
だからこそ、お客様も毎日飲みたいと思い、市川さんのコーヒーを買いに来て、落ち着いた気分になり、今日も一日頑張ろうと思えるのだろう
店舗情報
<所在地>
大阪府大阪市西区靱本町1−14−8
<営業日>
月〜金/9時00分~19時00分
土曜日/11時30分〜19時00分
定休日:日祝
<電話>
06-7506-1137
<最寄り駅>
地下鉄四つ橋線「本町駅」
28番出口から徒歩3分
<facebook>
ライタープロフィール
佐比内優太(さひないゆうた)
神戸大学工学部4年生。
社会人になって働く前に、「価値づくり」とはどういうことなのか、自分はどういう生き方をしたいのかを追究したいと思い、現在休学中。
バーテンダー、カメラマン、メディア、ライター、e-Sports、教育など、自分の興味・関心があることに、幅広く取り組んでいる。
BusinessCafe関西インターン生。