プロフィール
山本英喜(やまもと・ひでき)
空間設計カラー代表。
インテリア設計士。山口県生まれ。
飲食店を多店舗展開する家庭に生まれ、幼い頃から皿洗から配膳をすることが当たり前の環境。
学生時代は、パン屋での製造から販売を経験、また同時期に百貨店催事で食品販売やお好み焼きや巻寿司を作って売るアルバイト実績も。その後は兵庫県で就職し移り住む。実家の店舗が廃業することとなり、これを機に独立開業して店鋪設計事務所を設立。
2009年 空間設計カラー 設立
2014年 ~飲食店開業セミナー(兵庫県中小企業団体中央会 主催) 講師
2016年 ~神戸市産業振興財団 専門家派遣事業 専門家
昨年、将来店舗を持ちたいと考えている人向けに、講演をしていた山本さんがテーマとした言葉は、「妄想」だった
山本さんは、店舗設計をするときに、どんなお客様に来てほしくて、どんな雰囲気のお店にしたいのか、お客様と時間をかけて、何度も一緒に妄想をするらしい
そのことを、山本さんは、すごくイキイキとお話しをしていた
今回の取材では、実際に山本さんと依頼主がどんな風に妄想しているのか、その様子や現場を窺えるのが楽しみだった
普段の依頼主の方とのやりとりを、詳しく説明
山本さんの寄り添い方に、多くの参加者が驚いた
オープンした先にいるお客様を見る
同行取材の中で、山本さんが設計されたお店を訪ねてランチをいただいた
その和食屋さんは、住宅地の中にあり、ちょっとした隠れ家みたいなすごく落ち着きを感じる佇まいだった
お客様も店員さんと楽しそうにお話をしていて、とても近い距離感の関係性があった
食材のこだわりや、ご飯の炊き方までこだわりを感じる幸せなお食事を堪能した後、オーナーさんに、お店づくりをした当時の山本さんとのやりとりがどんな感じだったのかを思い返していただいた
どんなお客様に来て欲しいのか、どんなお店にしたいのか、まずは徹底的に妄想し合う
お客様との距離感、時間帯、お客様像など、具体的なアイデアを出し合い、すごく盛り上がっていたらしい
自分のお店がどんな風になるか想像しながら話すのは、自分の思いをお店に映し出す瞬間になっていて、ドキドキするのだと思う
更にこのお店のオーナーさんは、完成した今でも、自分が届けたい幸せが伝わるようにたくさん工夫をし、まだまだ挑戦をし続けていた
それをまた、山本さんと妄想し合うのが、とても楽しみなのだそうだ
どんなお店にするか一緒に妄想する中で、オーナーさんの本音を引き出し、思いを整えていく
そして、開店後も価値を高め続けようとするオーナーさんの姿勢によって、来て欲しいお客様がどんどん来るように…
こちらのお店では、今では、お客様との距離感がとても近く、新しい繋がりができるようになり、お客様の満足度も非常に高く、リピーターの方がとても多くなったらしい
お店がオープンした、その先にいるお客様を一緒に見て、一緒に価値を作っていく
山本さんとお客様の妄想は、お店作りには欠かせない要素なのだ
「さくらんぼう」さんで食べたランチ
お店の近況報告と今後の取り組みを相談
働き手への気配り
山本さんが意識していることで驚いた一面があった
それは、「従業員がとにかく働きやすい設計を心がける」という環境デザインを絶対に欠かさないことだ
「こんな感じのお客様に、こういうことで喜んでいただきたい」とオーナーさんと妄想をしていると、ついついお客様のことばかりに目がいってしまいがちだ
でも、そのお客様に最高のおもてなしをするには、まずは働く人の環境が良くないといけないと、山本さんは考えている
きっかけは、山本さんの実家でのお話
山本さんのお母さんは飲食店を経営されており、小さい頃から山本さん自身もお店のお手伝いをしていた中で、とても残念に思うことがあったそうだ
そこは、働き手の環境が悪く、調理などのスペースが十分に確保されていなかったため、ずっと同じ姿勢で料理を振舞うことが多かったという
そして、とうとう最後には、働いている人の多くが体を壊してしまった
働き手のスペースの確保が不十分で、ずっと同じ姿勢になってしまったり、動線がきちんと確保されていなかったりすると、ケガをしたり、お客様への対応が遅れてしまったりする
つまり、お客様に喜んでいただけなくなるのだ
自分が設計する店舗で働く人たちには、そんな経験をして欲しくない
それを、山本さんは常に心に留めながら、設計しているのだ
お客様に新鮮なケーキを味わっていただきたいため、ショーケースに商品を陳列しない(「パティリー こすず」さん)
オススメのメニュー「こすずブッセ」
施工業者との妥協のないやりとり
普段からいつも笑顔で、お客様とワクワクしながら妄想している山本さんだが、現場に入っているときは、表情が一変する
現場では主に、図面を用いてやりとりをしている
だからこそ、認識のズレや伝達のミスがあると、全く妄想と異なる造りになってしまう危険性があるのだ
そのため、部屋と部屋の区切りや、天井の細部に至る細かなところまで、徹底的に現場施工業者の方と議論し、認識の違いがないか、確認し合う
実際のやりとりを聞いていると、しつこいくらいに何度も完成のイメージを確認し、一つ一つ漏れがないように、図面に書き込み、他の人が見てもちゃんと分かるようにしていっていた
とにかく、施工現場の全員で想いを一つにしたいくらいの勢いでコミュニケーションを大切にする
開店された後の賑わいを創りたいという妥協なき山本さんのこだわりを感じた
その時の山本さんの表情は、いつもの表情と違い、真剣そのものだった
修正があれば、全て一緒に確認して図面に書き込む(移転工事中の「たかしょう」さん)
現場の施工業者の方と、イメージを丁寧に共有する
この人だから安心できる
密着取材を終え、山本さんが昨年の講演でお話ししていた中で、もう一つ大切にしている姿勢が蘇ってきた
それは、「依頼主との寄り添い方」だ
新しくお店を始める時、まずは物件を探して、その後、そのお店をどんな風にデザインするかを考えることが多いと思う
しかし、山本さんの場合は、出店者が考えがちなその手順とは逆のことを依頼主に推奨している
まずは、出店者と一緒に妄想することによって、どんなお店作りをするか決める
その後、その思いが一番形になりそうな物件を、依頼主と一緒に探し回るのだ
そうすることで、周りの雰囲気と合うか、建物の構造に悪いところがないかなども踏まえた上で、一緒に妄想したお店を作っていくのに、ベストな物件を探すことができる
大手設計事務所に勤めていたときにはできなかった、今の山本さんが大切にしている向き合い方だ
そんな、丁寧に寄り添ってくれる山本さんだからこそ、安心して店舗設計を依頼できるのだと感じた
依頼主との向き合う中で、大切にしていることをお話しされている山本さん
ライタープロフィール
佐比内優太(さひないゆうた)
神戸大学工学部4年生。
社会人になって働く前に、「価値づくり」とはどういうことなのか、自分はどういう生き方をしたいのかを追究したいと思い、現在休学中。
バーテンダー、カメラマン、メディア、ライター、e-Sports、教育など、自分の興味・関心があることに、幅広く取り組んでいる。
BusinessCafe関西インターン生。